- 2024.03.5
第七十三稿「見た目だけのデジタル化に意味はない」―今こそ本物のDXによる経営革新を―
■残念すぎるDXの現状
2023年9月時点の経済産業省のDX認定事業者数は直近1年間で約1.7倍に増加しており、中小企業では約2.7倍に急増しています。DXそのもののメリットとしても、業務の生産性や正確性の向上を上げる声が多く、DXに取り組む企業は今後も増える一方でしょう。
しかし、その一方でDXの効果がなかなか出ないという声も少なくありません。その理由として考えられるのは、ITさえ導入すればうまくいくという安易な考え方にあると思われます。また、DX推進を支援すべきITベンダーの多くも単なるIT導入にすぎない動きをしているのも問題だと思っています。
■DXは「今の姿」をデジタル化するのではない
DXが従来のIT化と根本的に違うのは、「今の姿」をデジタル化するのではないという点です。従来のIT化では、今現在における業務の問題を解決することを目的としていました。当然、その利害関係者は今の組織体制における社員であり、その結果、部署の壁を越えるような解決策にはなり得ませんでした。
■DXは「未来の姿」を実現するためにデジタル化するもの
一方、DXは「未来の姿」を実現するためにデジタル化することを目指します。現状問題の解決を将来課題に置き換えることによって、一気に解決してしまおうという考え方です。
たとえば、営業部門だけでなく出荷部門でも納品メールで新商品案内をする、営業や製造部門がIOTを使って「現場で品質をつくりこむ」、外注先と製品仕様をクラウド共有していっしょに製造方法を工夫するといったことが考えられます。ここで問題となるのは、こうした解決策は現行組織や業務のやり方のままでは実現できないということです。DXが難しいのはデジタル技術の活用にあるのではなく、組織を変えること、そこで働く人の考え方を変えることにあります。
■デジタル技術の活用については、ITベンダーに相談することができますが、自社にとっても「未来の姿」がどのようなものなのかは自社で考えるしかありません。そこで必要となるのはビジネス構想力です。ビジネス構想力を高めるためには、社員個々人の能力育成も必要ですが、それ以上に部署の壁を越えて何かできないかについて議論していける組織文化を形成することが重要です。「今のままでいい」、「自分の部署だけでできることを考えるだけで手一杯」、「あそことは一緒にやりたくない」という部分最適な思考を排除することが大切なのです。IPA独立行政法人情報処理推進機構が提供している「DX認定申請書分析レポート 申請書の記述内容の分析と作成のポイント」を読むと、DX認定事業者がどのようなDX推進計画を策定しているのか知ることができます。自社に類似する企業のDX事例から学ぶのもビジネス構想力を高める上で役に立つでしょう。