- 2020.01.17
なぜなぜで考える問題認識 ―過剰なチェックリスト主義が生み出す思考停止―
■作っては捨てるを繰り返されるチェックリスト
ISOマネジメントや内部統制など監査、審査の現場ではチェックリストが多用される。チェックリストの有用性を否定するわけではないが、これほど多用される状況においては、その副作用についても認識しておくべきだろう。通常、チェックリストは何らかの理想が元にあり、その理想において見られる特徴、あるいは反対に理想から離れた状況において見られる特徴を列記することによって作成される。チェックリストの問題はその作成手順そのものに包含されており、チェックリストはそれが作られた時点から既に有用性を失い始める運命にある。その結果、チェックリストは作っては捨てるを繰り返されることになる。
■善悪の判断を固定することの危険性
理想とする状態における特徴が実現できているか否かを問うチェックリストでは、いい悪いだけが議論となり、なぜよいのかだめなのかという思考を失わせてしまう恐れがある。
何が問題なのか、なぜ問題なのかを考える癖をつけておかないと、ただ言われたことだけをしていればよいという職場風土を生み出し、指示待ちロボットのような社員を増やしてしまいかねない。チェックリスト上では不適となる場合であっても、チェックリスト作成時に想定していなかった状況では適切な判断、行動だということもあるだろう。顧客からの新たな要望やビジネスチャンスなど市場構造の変化、想像もしなかった技術進歩、寝耳に水のような業界規制、想定外の災害や社会問題など、既存のチェックリストがある日突然無意味となるようなビジネス変動リスクがまずます大きくなっていくことに異論がある人は少ないだろう。組織のためを思って作成したチェックリストのせいで組織の成長が止まってしまうのだとすれば、なんとも悲しいことである。
■なぜなぜで考える問題認識
規程で書いてあるから、チェックリストに載っているからだめではなく、その状況を放置したらどのような好ましくない問題が起きるのかが説明できなければならない。その問題が起きたら、その先にどのような結果が待ち受けているのか想像できなければならない。たとえ、チェックリストが提示している内容と違う判断や行動がそこにあったとしても、その状況においては最適になるかもしれない。チェックリストが陳腐化し、現状に合わないようになっているにも関わらず、使い続けることの弊害は小さなものではない。チェックリストが想定している理想は、顧客満足や利益増大、企業成長など企業にとって重大な意義を持つものばかりである。そこに書かれている内容が的外れになってしまえば、企業経営を大混乱に落とし入れてしまうことは想像に難くないことなのである。
■妥当性確認(バリデーション)の重要性
チェックリストが持つ危険性を避けるために、監査、審査に携われる者が肝に銘じなければならないのが、「妥当性確認(バリデーション)」の重要性である。チェックリストどおりに仕事ができているかをチェックするのは「検証」である。妥当性確認とはそもそもこの仕事は上位の方針や目的に合っているのかについて考えることである。妥当性確認がきちんとできている組織であれば、チェックリストが陳腐化してしまっていること、間違いがあることをすぐに気がつくことができる。悪いルールは変えればよいのだ。ISO9001ではプロセスの妥当性確認の対象として監査プロセスも例外としていない。妥当性確認能力に欠ける監査部門は現場改善ばかり指摘するが、妥当性確認ができる監査部門はマネジメントシステムの欠陥と是正の必要性を経営者に提言できる。マネジメントシステムが改善されるということは、まさにISO規格が期待してやまない継続的改善が機能するということに他ならないのである。